オックスフォード通信(60)働きすぎない方がいい仕事ができる

イギリスに来て60日目を迎えました。

この間、休む間もなく、いろいろなことに積極的に手や足をだしてきました。今週、共同研究者のR先生には日本での生活は忙しすぎるのではないの?と言われてしまいましたが、事実、日本と比較してイギリスでの生活は随分ゆとりを持っていろいろなことを考える時間を頂いています。

オックスフォード特有のセミナーにも数えてみると(お腹の痛くなったものも含めて)17回に及びます。我ながら日本人は勤勉であるように思います。日本で働いていることを思えば何ということはありませんが。

この間、考えたり感じたことを書き綴らせていただきましたが、もう1/6が終わろうとしていることにビックリします。イギリスはそろそろ1年のAcademic Yearが終わろうとしています。いろいろなセミナーもしめくくりという位置づけのものが多くなってきました(例、通信59の講演会)。

これまでバラバラだったものも徐々に、ああ、そういうことなのか、と繋がってきているように思います。街の位置関係、人との関係、オックスフォード大の仕組みなどやはり時間をかけないと分からないものが多くあります。

この分かることには時間がかかるということは当たりまえですが重要なことだと思います。オックスフォード大は3学期制を取っていて(1学期目が10月からのhilary term, 2学期めがmichaelmas term、そして最終3学期目がtrinity termという名前がついています)、それぞれ8週間です。年間でも3×8=24週間という計算です。現在日本の大学は執拗に15週間を維持しようとしていますが、私が同志社女子大学に勤め始めた頃から2000年くらいまでは各学期の授業回数は12回〜13回でした(ちなみに私のK大学時代は、精々11回くらいの授業回数に先生の休講、学生の自主休校があって8回くらいの授業回数だったと思います)。

じゃあ、オックスフォード大の方が成果が上がっていないかというとそうでもないのですね。緩急の付け方が学問には大事だと思います。いま、私がイギリスで Sabbatical を頂いているのもそうですが、学ぶ期間と休暇の時間のバランスは重要だと思います。

先日の講演会の最大のテーマは統計学者Tukeyの “An approximate answer to the right problem is worth a good deal more than an exact answer to the wrong question“ (正しい問いへの曖昧な解答の方が間違った問いへの正確な答えよりもマシだ)という言葉で集約されるものでした。

忙しすぎると、自分が持っている問い自体が正しいかどうかを考える余裕なくその答えを出すことに精一杯になってしまいます。これほどの時間の無駄はありません。むしろ、余裕をもってまずその問い自体が適切なものかどうか吟味する必要があると思うのです。

その意味ではイギリスでは日々の中にも夜の時間の確保、土日の確保、また大学では学期中以外の沢山の時間が贅沢に用意されています。

今、自分が取り組んでいることが重要なことなのか、それを吟味するメタ認知の時間は重要であると思います。特に、大学においては。そうでなければ、大学の授業が終われば学んだはずのことはすべて忘れ去られてしまいます。それこそが最大の損失です。

日本の大学も文部科学省とか大学基準協会のような組織の顔色ばかり伺うのではなくで、本当の学問発展のために何が必要か、じっくりと考える必要があると思うのです。

そんなことを書いている私もまた日本においてはそのような余裕もなくがむしゃらにやってきたのも事実です。今、こちらでいろいろな研究に取り組む中で、自分が取り組んできたことがそれほど間違っていなかったのは奇跡的だと思っています(これは私の力ではなくて私の周りの特に同志社女子大学の同僚と学生諸姉のおかげです)。

日本に来春帰国したら、15回の授業回数は個人の力では変更できないと思いますので、学ぶ内容の精選と深層化・行動化・連携化・考える時間の確保などに取り組んでみたいと思います。

大学に学生を縛り付ければ着けるほど、期待した方向とは違った方向に進んでしまうように思います。学生の自主性を養うには学生の自由な時間を用意してあげることだと思います。学生諸姉もその時間はアルバイトに使いすぎるのではなくて、本当に自分がしたいことにあてるようにしてもらいたいと思います。

残り10ヶ月、私も更に思考を深め、広げるられるよう、一層アクティブに動いてみたいと思います。

(2018.5.26)

★今回の教訓:光陰矢のごとし、と終わってから思うのではなくて、時々振り返るようにしたい。

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