オックスフォード通信(224)楽観主義者の悲観

Romanes Lecture: Dr Vint Cerf さんのレクチャーに参加してきました

このレクチャーの中身もそうですが、最初の挨拶にもあったように1892年(日本の明治時代中期)に始まった伝統のレクチャーらしく、講師は2名の大学の杖を持った人が先導し(レクチャーの間中、杖をフロアに立てて聴衆の方に向かっていました)、入場と共に、”Please rise” と全員が起立し、入場が終わると “You may sit” と座らせてもらえるなど格式を感じます(終わりも同様でした)。

シェルドニアン・シアター自体重みを感じる場所ですが、一層という感じがしました。しかも写真は厳禁、素直に指示に従うことにしました。レクチャーが始まるときには最前列に座っていたガウンを着た2名の大学関係者(おそらくどこかの教授)が帽子を取って挨拶をします(レクチャーの終わりにも)。

Dr Vint Cerf はインターネットのCo-Founderという肩書きが示すようにかなりの高齢でしたが、話し方はハッキリして時々ジョークも交えながらの30分間のお話でした。春がヒラリークリントンで(インターネット中継で見ました)その時はヒラリーだから30分で質疑応答もないのかとおもったのですが、このロマンスレクチャー自体がそのような形式のようです。

インターネットの進化の歴史を縦軸に個々の出来事を横軸にした論理的なお話でした。インターネット自体がアメリカで戦争を想定し軍事用コンピュータを接続したところからスタートしたことなど時々年代が聞き取りにくかったのですが、インターネットは約50年間の歴史を持っていることをあらためて実感しました(実際の開始は1980年代ですが)。

なかでも2007年のiPhoneの発売以来、スマートホンのインターネットへの占有率は高まる一方で現在では50%に上ると述べておられました。またあらためて、Cyber-Spaceという言葉について考えるきっかけになりました。SNSをはじめ、現実を投影するひとつの世界が存在しているということです。その中でSNSは、misinformation/disinformationにあふれている、このセキュリティーをどうするのかという話にも言及がありました。またインターネットは電気に依存していることも事実です。電気が使えない状況ではdisasterに陥るというのはコンピュータを自宅以外で使っていると実感するところです。

新しい話というよりは、インターネットを作った伝説の人から直接、これまでの経緯と今後の課題をお聞きしたというところに意義があるのだと思います。オックスフォードならではの「大物」のお話を拝聴した晩となりました。

(2018.11.6)

★今回の教訓:サイバースペース、どこかで(既に?)現実世界と逆転する時代がくるのだろうか。Vint Cerf は自分は楽観的な人間だがインターネットの将来については Not Optimisticと言っておられた。ところで楽観主義者の悲観と悲観主義者の楽観ではどちらが楽観的だろう?

© Wakazemi 1-20