オックスフォード通信(258)i-Seminar 第27回目:論文を書く意義

卒論を書くことにどのような意味があるのか

このことについて議論をしました。メタ認知とは「自分がしていることについて知る」ことをいいますが、まさに卒論を書きながら卒論とはなんぞやという議論をしたわけです。これはなかなかクオリティーの高い話だと思います。

まずKitao先生から素晴らしいレクチャーをして頂きました

1. Self-confidence: 自分に自信を持つことができる。英文で30ページの卒論はなかなか骨の折れるチャレンジングなタスクですので、英語だけでなくこの山を乗り越えた自分自身に大きな自信がつくのは間違いないと思います。よく「根拠のない自信」ということがありますが、卒論の場合には「根拠のある自信」が身につくというものです。実際に卒業メンバーがよく言っていますが、日本語でのレポートなら喜んで、英文でも500 wordsくらいならスラスラ書ける「気」がすると言っています。その気がするというのが重要なポイントだと思います

2. Critical (Logical) thinking:論理的思考能力。これはcoachとまたスタディーグループのメンバーとやり取りを繰り返していきますので、自分自身の非論理的な思考が修正されるいい機会となります。また、リサーチ・クエスチョンへの説得力のある解答を考えなければいけませんので論理的に考えざるを得ません。ただ、これは日本語でも身に付く能力であって英語の専売特許でないことは気をつけないといけません。事実、日本語日本文学科で卒論を書いている人達も同じ能力が身についていると思います。

3. Evaluating research:他の研究を評価する能力。これにはハッとしました。考えていませでした。確かに自分自身が論文を書くことによって他の研究や論文を批判的に読んだり、評価する能力が身につくと思います。来年からこのポイントも指導に含めたいと思います。

4. Life-long education:自分自身で研究課題(Research Question)を設定してその問いを解くのが卒論です。卒論が終われば、社会人としてまた人生を生きるなかで次の疑問が浮かびあがってくることになります。北尾先生は、What you want to know … Academic mind… Continue to learnという表現を使われましたが、次に自分は何が知りたくて、それをどう解き明かすのか、Life workのサイクルが出来上がるかもしれません。これは研究者になるとかそういうこととは関係なく、「模索しながら」人生を歩むことにつながるのです。ただ生きるのではなくて、何かを探し求めながら模索しながら生きて行くことはとても意義のある、そして人生を豊かにするものだと思います。

この次に私の番だったのですが、3以外は言われてしまったので(後攻は不利です)、私は取っておきのひとつに焦点をあててお話しました。

5. Resilience: 反発力とも復元力ともいいます。つまり卒論を書く中で落ち込むことはたくさんあります。思い通りの結果がでなかった(ねつ造してはいけません)、自信をもって書いたものに一杯の修正コメントとともにフィードバックが返ってきた(当たり前のことですが)、いわゆるWriter’s block=スランプに陥ってしまった、などなど。そこから締めきりを念頭に何度も自分を鼓舞し立ち直り、また倒れて立ち直るという、文字通り七転び八起きを繰り返すことになります。転ぶことは当たり前なので問題はそこからどう立ち直るかというのが問題になります。卒論を書く中で、友だちや家族の支え励ましも大きく影響します。卒論が完成したということはその励ましにも支えられながら、起き上がることができた、ということを示しています。このような復元力はこれからの人生で大きな支えとなります。

その他、具体論についても議論をしました。

A. Plan carefully: 残りの日数を考えながら計画を立てる

B. Perfect is the enemy of good. God is in the details. これらは相反することですがどちらも重要なことです。完璧を目指すとなかなか仕事が進みません。ですからBig jobを先に済ませてしまうことが重要です。でもその後にはSmall jobにも配慮をするべきです(神は細部に宿る、の方)。時間配分にも気をつけなければなりませんが、両方に配慮をすることが重要だと思います。その意味ではTypoにも気をつけたいものです

C. Good sleep. Eat well. 自分のBest time に仕事をするのは重要なことです。当たり前のようですが十分な睡眠と栄養はいい論文を書くためには不可欠と言えるかもしれません

D. Work together. 誰かに自分の論文を説明してみること。すると問題点が見えてきたり、解決方法が見つからなかった問題の糸口を見いだすことができます。また誰かと一緒に作業をすることによって意欲が高まるのも事実です。

この最終盤のゼミは各自がPCを持参してラーニングコモンズのワークショップスペースで行っています。これまでは秋学期は作業を重視して情報処理教室でのゼミだったのですが、議論を重視すると普通教室の方がいろいろな話をするのに便利です。最近ではラップトップコンピュータも小さくなりましたし、大学生が授業に持参するのはある意味では当たり前のことかもしれません。これもまた今年の発見のひとつです。

(2018.12.10)


★今回の教訓:計画をしっかり作れば、Keep calm and carry on. この精神ですすめればよし。

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