オックスフォード通信(56)便利と幸せのトレードオフ

オックスフォードににて不思議なのは本当のコンビニがないこと(もどきはあります。例えば365日、朝の9時から夜の9時まで空いていますなど。ただ日本のコンビニとは似ても似つかないです)。

平日で午後6時半には大方の店は閉まってしまいます。オックスフォードというよりはロンドンでもそうですがスターバックスはあまりみかけないのですが、現在住んでいるサマータウンにある大きめのスタバでも平日で午後7時、日曜日は午後6時には閉まってしまいます。バスや鉄道も土曜日で2/3くらい、日曜日に至っては1/3くらいの運行という感じです(しかも、遅れる、頻繁にキャンセルになる。3日前からしなきゃいいのに新ダイヤになったようで[日本でも3.17新ダイヤ運行とかありますね。あれです]、早速運休の嵐だったようです。イギリス人も怒っているようでBBCはよくそのようなTwitterをTVで紹介しています。こないだは、朝3時の!電車に乗ろうと早起きして駅に行ったらキャンセルだった、と怒っておられました。その怒りよく分かります)。

以前この不便さについては書いた事があります(通信47)。日本との環境や文化の相違はまずこの便利かどうかというところに目がいくのですが、毎日オックスフォードで生活をしていて思うのは日本なら、コンビニでほとんどすべて片が付くなということです。コーヒーにしてもアイスクリームにしてもコピーにしてもそうです。正直なところここにセブンイレブンを作ったら便利さ1000倍、すべてのモヤモヤが解決するように思います。

オックスフォードに来てほぼ2ヶ月ですが、でもイギリスはあえてしない道を取っているように思います(単にできないだけやん、という別の声も私の中で聞こえていますが)。その証拠に店が早く閉まっても(パブは開いています)、売っているものが多少高くても、それほど不幸に見えないのです。それほど不満を持っているように見えないのです。大学もいまだにローテクな所がおおいけれど、それが決定的に不利であるようにも見えないのです。それが少し分かってきました。

合理化とは何かを捨てることなんですね。

日本のように吉野家松屋にいけば5分以内にご飯が食べれて、コンビニは24時間空いていていつでもビールでもお菓子でも買うことができます。でもその代償としてオックスフォードにはまだある街の本屋さんや文房具店などの小売り店がいまの日本にはわずかな例外を除いて残っていません(僅かな例外はありがたいことに同志社女子大学今出川キャンパスの近くの枡形商店街、通称出町商店街です)。

先ほど、母の誕生日カードを街の文房具店に行って買ってきたのですが、日本に送る封筒が欲しいというと引き出しからお店のおばあさんが出してくれました。日本ならこの手間が合理化されているのですね。その分、封筒代も多少安くなるのかもしれませんが、ここにコンビニを作ったら、このおばあさんの Pen to Paper という味のある名前のお店はほどなくなくなってしまうことでしょう。

一見無駄に見えるところに大切なことが隠れている、とは本当のことで、このような一手間かける部分を大切にすることで、みんながそれぞれ何かの主人公になる形(例えば、このおばあさんなら自分の文房具店を経営していることに誇りが感じられると思います)を持続できている野田と思います。イギリスは社会主義の国ではありませんが、国民が共存共栄できる道を選択していると思います。

それとはこれ以上ないくらいの便利さを手にしている日本にすむ1億2千万の国民。便利=幸せなのか、と首をかしげてしまします。

よくゼミでトレードオフの関係について議論することがあります。トレードオフとは二律背反のことで、一方を立てるともう一方は捨てないといけないことを指します。よくいう例えは、イソップ物語の「欲張りな犬」の例です。肉を加えた犬が湖に来たら、湖にもう一匹肉を加えた犬がいる(もちろん自分の姿が映っているだけです)。その犬の肉を取ろうと思ったら今口にくわえている肉を手放さないと取りにいけない。この寓話のように、日本人は便利さを取るためにみんなの幸せを手放してしまったのかもしれません。そしてイギリスはそれが分かっているから今持っている幸せを手放さない。

もちろん、便利さも幸せも共存する方法を模索することもできると思います。しかし、スマートフォンができて、ラジオもカメラもタイマーも時計も万歩計まですべてスマートフォン一つでできるようになって、これまでデジカメを作っていたカシオが撤退したりするニュースを耳にすると、便利さと幸せの共存は難しいなと思ってしまします。その証拠にアップルは(私は大好きですが)もう一企業としては使い切れないくらいのキャッシュフローを手元に持って次から次にベンチャー業を買いあさっています。

一人の幸せが99人の不幸を生むような社会にしないようにしよう、とする静かな意思をここオックスフォードでは感じます(買いかぶりかもしれません)。

といっても日本の便利さが後退するとは思えません。ただ、2019年春の帰国を視野に入れながら、便利さと幸せがトレードオフにならない方法を自分なりに考えてみたいと思っています。おそらくそのヒントは私は英語学習、外国語学習にあるのではないかと踏んでいます(また考えがまとまったら書きます)。

(2018.5.22)

PS. そんなことを考えていたら昨日まで普通に映っていたTVが今朝から不通。原因不明。やっぱりイギリスの不便さにも幸せを感じられるほど人間が大成していないようです。

PS. 大学院生の方々と書いていた論文の改訂が終了。久しぶりに朝方まで論文と格闘。でも終わると爽やかですね。18期生のみなさんも12月にその快感を感じることができますよ。

★今回の教訓:トレードオフを乗り越えること。問題があれば必ず解決方法が見つかる。重要なのは問題設定ができないこと。さて。

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