オックスフォード通信(11)Catch 22(家探し最終章)

Catch 22とは何かの結果がその前提となっているジレンマのことをいいます。もともとJoseph Heller の小説が元になっている言葉です。簡単にいうと、戦争中、戦闘機のパイロットから免除しもらうには、自分が正気でないことが条件なのですが、自分が正気でないと分かっている人は正気なのでどこまで行っても免除条項に当てはまる人は、少なくとも自らは出てこないというジレンマをいいます。「正気でない」「パイロットから免除」この2つはつながりそうでつながらないということです(若ゼミの卒業生はゼミで議論したので覚えているかもしれません)。

今回、やっと家が決まったので、家賃を支払うことになりました。その場合、現金はダメでOxfordのB銀行に振り込みとなっているのです。それは想定していたので、日本の口座のあるM銀行から海外送金をしようとしました。すると、海外送金先を日本のM銀行に印鑑を押して郵送しなくてはならないのです。この場合、FAXもe-mailも不可となっています。印鑑はもちろん日本に置いてきましたのでイギリスから何もしようがありません。またこの払込情報は日本にいる間には知り得ない情報でイギリスに来てから知った情報です。もし学生の皆さんの場合であれば、家族が日本にいて、家族の口座から払い込むよう家族に連絡をすればいいでしょう。しかし夫婦ともこちらに来てしまっては子ども達は日本にいるものの印鑑の場所を含めて教えて→書類を作成→M銀行に送付→何日か経ってその情報が承認され登録→日本から海外に送金、ざっと1週間はかかると思います。久々に、少しあせりました。ただ、今回のオックスフォードでの研究生活はメタ認知をすることにしているので、このような状況は今後、日本人学生、日本人研究者にもあり得るな、と思いましたので、焦りを少し横に置くことができました。そこでいつものようにプランBを考えました。

プランB:妻の姉が広島で大学教授をしているので(分野は全然別の福祉関係)、すぐにライン電話をしました。ところが新年度初頭で月曜日の午前中は会議や新入生関係の仕事で一杯で早くて水曜日とのこと。→断念

プランC:そうそう今年で25歳になる息子がM銀行(同じではない)に勤務しているので、彼に頼もうと電話。日本時間で深夜2時くらいでしたがさすが若者、飲み会から帰ったところで酔っ払いながらもライン電話に出てくれました。さらにさすがなところにどれだけ酔っていても銀行員の冷静さを持ち合わせていて、勤務時間中に100万円以上のお金を海外送金すると間違いなく行内のチェックに引っかかるとのこと。→断念

プランD:そうそう私には2歳違いの妹がいてA部市で図書館に勤務しているのです(ちなみに出世していて館長です)。しかも図書館は月曜日が休み。これしかない。同じく夜中の2時頃に電話。さすがに寝ていると思ったところ、公務員は歓送迎会の嵐のようで、帰宅したところとのこと。話をすると考える暇もなく(酔っていたので考えていなかったかもしれない)快諾。プランはこう。月曜日の朝にA部市のK銀行に行き、彼女の口座から100万円云々のお金を引き出す→イギリスポンドに交換→指定口座にK銀行から振り替え。この場合現金が絡むので為替手数料は結構かかる(つまり損をすることになるが、+10円くらいなので100万円を超えるとざっと10万円は損益)この場合そんなことを言っていられない。妹に頼むことに決着。持つべきものは妹、兄妹、家族です。

するともう一つのプランが。

プランE: そういえば(言わなくても)子どもは双子なので娘(二卵性です)も関西で金融関係の仕事に就いている。妹よりは娘に頼む方が筋だろうということで、同じく娘にライン。さすがに日本時間では午前3時を超えていたので翌朝、快諾の連絡。本当に娘に頼もうとは思ったし、快諾はさすが昔トロントに住んだだけあって、グローバルにものが考えられると、いや親思いだと感謝したけれど、勤務時間中に市中の銀行にいってもらうのは忍びないと思ったのとそもそも時間は懸かるだろうと想定したので、このプランは丁寧に断念することした。

ざっと10分くらいの間にこのプランB〜Eまで考えられたというと、私が頭が冴えているように思われるかもしれないのですが、緊迫する状況になると(だって、住むところが決まるかどうかの瀬戸際ですから)頭脳は120%、いや150%以上のスピードで動くものですね。

プランDが実現可能と分かると安心して今度は違うアイディアが。そうそうメガバンクのM銀行ではなくて、今回はインターネットバンギングのS銀行のアカウントも持っていたことに気づきました。最初は半信半疑だったのですが海外送金の所を見ると、M銀行とは異なる記述が。そうなんですね、インターネットバンキングに送金先を登録するのに郵送という発想はないのですね。だって支店が存在しないのですから。ただマイナンバーの事前登録が必要とのこと。これはラッキーだったのですがマイナンバーがこの世に出現した後に口座を開いた場合には必須、それ以前であればどこかの時点で(つまり帰国後でも許容)登録すればいいことになっていました。やった!さすがインターネットバンキング、海外生活をサポートしてくれるのはメガバンではなくてインターネットバンキングだ!と心の底から思いました。ただ、1点大きな壁が。それは送金申し込みをしたらその後にその内容確認を電話でするとのこと。しかもその電話は国内限定とのこと。まあこの時点ではプランB〜Eの誰かに頼もうかと思ったのですが、正直が一番、S河銀行に国際電話をしてみました。国際電話は久々で(ラインでの国際電話は何度もしたことがあった)少し緊張したのですが、びっくり。「もしもし」・・・「もしもし」・・・・「もしもし」、相互にこの繰り返し。さすがにかなり疲れていたのでなぜこうなるのかすぐに分かりませんでしたが、ぱっとテレビでの国際中継の場面が目に浮かびました。そう時間差なのです。ラインの場合は恐らくインターネット回線なので時差はないのですが、電話はインターネット回線とは異なる回線をいまだに使っているのですね。
私:「海外送金をしたいのですが」
(3秒待つ)
S銀行行員F田さん:「わかりました」(ちゃんと日本人も名前を聞いていおいた)
(3秒待つ)
私:「連絡先ですが・・・」

これほど3秒間が長いと思ったことはありません。でもS銀行が偉いのは柔軟性があるというよりはカスタマー第一に考えているということです。もちろん、今回こんなに苦労しているのはオレオレ詐欺のような犯罪が横行しているからですが、S銀行が取った方法のように、支払い明細をメールで送る、こちらからその内容について再度電話確認するなど、異なった方法を提案するという手はメガバングにも考えられると思うのですね。結果的には、

プランF: S銀行の自分の口座から直接イギリスのB銀行の不動産業者の口座に振り込む

という方法で決着することが出来ました。ただ問題になったのは着金するまでの時間です(プランB〜Eの場合、実はもっとかかったかもしれません)。3日〜1週間、日本を出金してからイギリスの銀行に着金するまでかかるとのことなんです。イギリスの不動産は予想以上に厳格で着金するまでは鍵は絶対に渡してくれないということなんです。現在、大学の寮にB&Bとして滞在させてもらっているのですが(これもいい発見があったのでまたの機会に書きます)さすがに10日を過ぎると豪華な朝食も飽きてきますし(毎日完全に同じメニュー)妻に至っては卵焼きを自分で焼きたいと言い出す始末。なんとしても金曜日には引っ越しをしなくてはいけないのです。

実はこのエントリー(ギクッ!)は4/10に書き足しているのですが、妻は月曜日の午後などには、お金は今頃どのあたりを通っているのかななどと呑気なことを言う始末です。飛行機で運んでいる訳ではないので。しかし、さすが日本の銀行ですね。S銀行を出発して→Mほ銀行を経て、その後は不明と言っておられましたがが、正確にはイギリス時間、月曜日午前3時15分発(ここで当日レートと送金の確認電話、これは眠い)→火曜日正午着金、という素晴らしいスピードと正確性で送って頂くことができました。時間として1日半という超特急です。この時ほど、インターネットバンキングと日本人の勤勉性を再確認、感謝したことはありません。(2018.4.7)

★今回の教訓:インターネットバンキングは海外生活には必須。ただ、注意点は、海外送金する場合、途中の経由する銀行が手数料を取るらしい、しかもいくら取るか分からないとのこと(自分の口座のあるS銀行は4000円+1500円の手数料、つまり必要額+αを送金する必要がある。今回はS銀行のアドバイスも得て、1万円相当を(£60)を加えた額を送金。

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