オックスフォード通信(325/40)イギリス映画界

ビジュアルイフェクトを手がけるFramestoreの共同創業者のMike McGeeさんの講演会に行ってきました

これまでの講演会とは少し異なる映画界で成功を収めたクリエーターが講師でした。

マンスフィールドカレッジのレクチャーシリーズです。はじめて中に入りましたが、他のカレッジよりも一層機能的かつ近代的な構造になっていると思いました。開始時間ギリギリに到着したのですが、丁度私の前を講師のMikeさんが歩いておられました。

オックスフォードの講演会はパワーポイントが使われることもありますが、どちらかというと日本に比べるとローテクのイメージがあるのですが、マイクさんはクリエーターらしく(ただ後の質疑でタッチタイピングも出来ないしハイテクは苦手なんだと言っておられましたが)、具体的な映像を元にした分かりやすいプレゼンテーションでした。

そして何よりもVisual Effectの舞台裏を見せて頂いたのがとても参考になりました。例えば、映画「Paddington」の中でお風呂に浸かったパディントンが全身を震わせて水をはじくシーンがありましたが、はじめからVEがあるのではなくて、まずそれはモップに水を浸してそれを代用としてモップを震わせて水が登場人物の家族にびっしょりとかかってしまうシーンを撮っておいて、あとからそのモップをCGのパディントンに置き換えると言う手法を取っているとのことです。

はじめからコンピュータ上で何かを作って合成しているのではなくて、実物を媒介して最終的なビジュアルイフェクトを作っている手法が面白いと思いました。だからこそ主人公にもリアルなリアクションが見られるのだと思います。

また、映画「ゼロ・グラビティ」でも主人公のサンドラブロックをモデルに宇宙船と同じような空間を作っておいてそこで撮影をし、その中のものを後からCGで置き換えるという方法のようです。もちろん、宇宙を題材としているものではCGの割合が多くなり顔だけしか最後は残らない状況もあるようです。

これまでビジュアルイフェクトがとてもリアルだと思っていたその秘密が分かったような気になりました。現実にテクノロジーを組み合わせることによってよりクリエイティブな映像が出来上がることは何か示唆的です。テクノロジーだけでもだめで、現実だけでもダメで、そこで2つを掛けあわせることで化学反応が起きる。

具体的にFramestoreが手がけた映画のリストを見せて頂くと、ハリーポッターシリーズから最近の映画はほとんどそうじゃないかというくらいヒット作が含まれています。イギリスの産業な何?とずっと疑問に思っていたのですが、映画の屋台骨を支える技術を担っていたのですね。

オックスフォード出身の Mike さんの落ち着いた話しぶりにも何かヒントを得たような気になりました。

講演の中で紹介された教育によりリアリティをということで

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も(16回も無重力を繰り返して取り直したそうです)興味深かったです。Youtubeでお楽しみ下さい。

(2019.2.15)

★今回の教訓:Best experienceはどこから生まれるのか、Mikeさんが強調されたように、PhysicalとDigitalの組み合わせは相性がいいようだ。このような相性のいい組み合わせを考えてみるといいのかもしれない。

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オックスフォード通信(324/41)How to lose a country?

本の著者自らが来られるということで超満員の講演会に行ってきました

オックスフォードのヨーロッパ研究所(オックスフォードには本当に数多くの研究所があって、恐らく全世界が研究できる体制になっているのではないかと疑いたくなるくらいです)主宰ということもあり、Discussantant(指定討論者)もフランスなどヨーロッパ各国から選ばれていました(イギリス人は1/3だけ?)。

トルコの現状を前提に書かれた小説( £10の格安で購入させて頂きました)を元にした講演会というよりは座談会だったのですが、話は ポピュリスムからブレグジット、移民、宗教と幅広いトピックについて議論されました。その中でもポピュリスムブレグジットにどうしても話が集中するのですが「どうして人間はそれほど愚かになれるのか?」「どうして愚かな考えに人気があつまってしまうのか?」という言葉が印象的です。なぜイギリスがEUから脱退しなければならないのか、今から振り返ってみると、移民問題はあったにせよ、確固とした理由を思い出すことが難しい状況です。どうしてEU離脱国民投票の際にボリスジョンソンのようなポピュリストに賢明であるはずのイギリス国民が扇動されてしまったのか(座談会ではここまでは言及されていません)。それは第2次世界大戦における反省とよく似たところがあるのがビックリです。

質疑応答の中で移民問題についての質問があったのですが、それに対するEceさんの回答がふるっていました。「・・・ホームという概念は以前よりもずっと流動的で幻想的なものになっているのではないか。イスと同じようなイメージになってきているのではないか。空いているイスに座るだけでそのイスは世界のどこにあってもいい。ランド(=土地)と一対一の関係が崩れてきているのでは。移民というとイギリスへの移民ばかりが問題視されるけれど、イギリス国民もまたEU諸国や世界各国に移民している。今一度、Homeという概念を再定義する必要があるのではないだろうか」うーん、確かになあ、としばらく考え込んでしまう提案でした。

と同時に、文学はこういうことのためにあるのだなと思いました。正直なところ、文学は古来から各国でリベラルアーツの根幹に据えられてきているのに、なかなかその文学の現代的な意味や価値を認識させてくれる文学者にそれほど多く出会ってこなかったので(すいません)、小説をもとにこのような議論が展開されるのを目の当たりにすると、文学はやはりすごいと思わざるをえません。虚構の世界を作り上げる意味は現実を議論するためにある、のではないかと思いました。

指定討論者の一人が「Eceさんは怒ると笑うよね」と言っておられたのも印象的でした。怒ると怒るのではなくて笑い飛ばす方がインパクトがあります。

2時間で読めるよ、といわれていましたので、週末、ダブリンへ行く機内で読んでみたいと思います。

(2019.2.14)

★今回の教訓:それにしてもヨーロッパの人々は奥深く、知恵があると思う。今回のオックスフォード滞在でイギリス人やイギリスの文化・風土にも大いに感銘を受けたが、それ以上にヨーロッパという存在に目を開かされる場面が多かったように思う。改めてヨーロッパについてもっと深く知りたいと思う。

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オックスフォード通信(323/42)自転車のチェーン

急いでいるときに限って、ということがあります。

共同研究をしているH先生とのミーティングの時間に遅れると思って、さあ自転車で7分で到着と意気込んで自転車置き場に急いで行ったところ、何かバイクの雰囲気がおかしいのです。この自転車置き場は鍵も掛かっていて外部から入ってくることは不可能なのでいたずらということはまずないのですが、おいてあった自転車のチェーンが大きくはずれていました。

少しくらいなら直せるのですが、大幅にはずれているので3分くらいで見切りを付けて、近くの(有り難い!)サマータウンサイクルに持ち込みました。油で真っ黒になった手を洗わせて欲しいと、奥のトイレで手を洗って戻ってくると元の状態に。流石プロですね。 £2お支払いしてミーティングの時間に間に合いました(といってもこのような時に限ってH先生の前の予定が伸びて結局時間が余ることに)。巡り合わせとは不思議なものです。

(2019.2.13)

★今回の教訓:H先生は教育学部でも超人気の先生。でも忙しくてもいつも気さくに笑顔で誰にでも対応される誠実な姿勢には頭が下がる。私もまだまだだと思う。見習いたいものだ。

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オックスフォード通信(322/43)Turnitup

ITサービスセンターが主宰の剽窃(Plagiarism)についてのワークショップに参加してきました。
Plagiarismは日本だけでなく、イギリス、アメリカどこの国でも大きな問題になっています。特に、アカデミックな世界では、学生が(まあ、教員も問題になっていますが)書いたレポートがどれだけオリジナルかというのは、インターネット(情報の共有)やデジタル化(情報のコピー)が発展する中で大きな問題になっています。

オックスフォードでは、Turnitup というソフトを導入してるそうでその使い方と効用についてのワークショップでした。実際に、私も本年度のゼミメンバー(18期生)が書いた卒論で試してみましたが、その威力はすごいと思いました。最初、間違えて日本語の文書を入れてしまったのですが、その場合でも日本語の論文データベースと照合してどれほど引用されているかと%で表示してくれます。

もちろん、剽窃と言っても、きちんとした手法を取っていれば(引用、文献の明示)問題ないのですが、本文中の文章がどれだけ本人によって書かれているかが分かるのが面白い所です。

J先生はワークショップ後も使える設定にしておいてくれた関係で、17名全員の卒論をチェックすることができました。25%未満であれば、全く問題なしということですが、7%〜16%の間で全員収まっていました(安堵)。と同時に卒論の単語数も自動的にカウントしてくれるのですが、平均で9650 wordsも書いていることにビックリしました。これは表紙からレファレンス、アペンディックスまで全て含んでの単語数ですが、3000 words以上という条件を3倍以上オーバーしていることに改めて衝撃を受けました。よく頑張ったのですね(卒論の個々の評価は卒業式で、卒論と一緒にお返しします)。

ちなみにこのTurnitupは大学など学校単位でないと契約できない仕組みになっているようです。日本では関学が加入しているようです。

(2019.2.12)

 

★今回の教訓:レポート評価でインターネットからコピーしたかどうかなどよく大学でも問題になるが、「・・・と思う」ではなくて「・・%」と数値で明示しなくてはこれからは学生を納得させられないのではないか、と思う。

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オックスフォード通信(321/44)高等教育についてのセミナー

本年はオックスフォード大学・教育学部が100周年記念ということで力の入った講演会が時々はいっています

本日は、イギリスの大学進学(高等教育)の現状について、ヨーク大学のP先生が分かりやすく、具体的な数値をもとにお話になりました。ほぼ予測はついていたにせよ、大学進学と親の収入の相関関係は高く、高等教育の公平さという点で問題があることが明確に提示されていました。その傾向は年々ハッキリしているようで、奨学金や政府からのサポートが追いついていない状況です。
それは日本でも同じ状況が生まれているわけですが、興味深かったのは、大学院になると「U字カーブ」を描き、親の収入の影響は一旦下がり、また博士課程になるとあがるという点です。学部を卒業して更に大学院にまで進学する学生はそれなりの高い志と能力が必要となるということなのでしょう。

いつもの講演会と同様だろうと思って、5分間に会場に到着したのですが、すでに座席は満杯、私よりも後から来た人は立錐の余地もないくらいの混雑でした。それだけ関心が高いということなのでしょう。

最後に提案として、今後の大学入試では、郵便番号で地域の差(地域によって貧富の差がある)も縮めていく必要があるとされていていたのは興味深かった点です。


(2019.2.11)

★今回の教訓:学費が一番の問題になる点だが、イギリス人で £9000(約130万円)、EU加盟国で・・・その他の外国人で・・・と、国籍別に分けている点も問題ではないかと思う。

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オックスフォード通信(320/45)Baftas

72nd The British Academy of Film and Television Arts (Baftas) 授賞式が行われています

アメリカのアカデミー賞のイギリス版です。BBCが生中継をしています。雰囲気はアメリカの授賞式よりも少し控えめですが、イギリスらしく落ち着いた雰囲気で進められています。

観ていない映画も音楽賞、衣装賞などを受賞していますが、注目していた音楽賞はボヘミアン・ラプソディ、主演男優賞は同じくボヘミアン・ラプソディのRami Malekが受賞しました。

映画の熱演からも当然のように思います。受賞スピーチでRami はアウトサイダーの自分が偉大なアクターの仲間入りが出来て光栄だと言っていたのが少し意外な感じがしました。両親がエジプトからの移民という意味で言っているのでしょうか。彼を最初に見たのはトムハンクスの「Larry Crowne」でのSteve役です(最初はなかなかこの2人が結びつきませんでした)。

途中ではスピーチに、ウイリアム王子(Duke of Cambrige)も登場するなど見ていて飽きさせません。また今年亡くなった映画人では、日本の高畑勲監督も紹介されていました。

作品賞の「Roma」など見ていない映画も多いので是非機会を見つけて見てみたいものです。


(2019.2.10)

★今回の教訓:イギリスのアカデミー賞は何か品格を感じさせる。いい演出だと思います。

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オックスフォード通信(319/46) YarntonとWoodstock

アンティークにそれほど興味があるわけでもないのですが、オックスフォード近郊のヤーントン(Yarnton)まで出かけてきました

オックスフォード周辺に限らずイギリスにはアンティーク・センターなるものがあります。そこでは、木製製品から金属製のもの、服飾、装飾品からカレンダー(昔の・1989年のサンダーバードのカレンダーを見つけました!)から切手、葉書、トランプ、ロウソク、お皿、カップなど人間の生活に関連するものであればありとあらゆるものが売ってあるといっても過言ではありません。もちろん、そこには数は少ないですが、本も売ってあります。

春にお世話になったビアトリクス・ポターの専門家のK先生にいろいろと教えて頂いたお陰で、ピーターラビットにも興味が芽生えたのですが、そのピーターラビット関連の絵の額や絵本も売ってありました(残念ながら2000年以降の出版であまり価値がありそうではありませんでした)。

1時間ほど60軒もあるという店(コーナー)を冷やかした結果、歴代の王・女王が一覧で分かる古本と小さなピクチャーディクショナリーを購入しました。

来るときには嵐のような天気も帰りには青空が広がっていました。さらに近郊のWoodstock(ウッドストック)まで足をのばすとブレナムパレス宮殿側に落ち着いた街並みが広がっていました。

(2019.2.9)

 

★今回の教訓:イギリスは郊外も美しい。特に雨上がりの青空はとてもいい。

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